「観光と旅は違う」
37歳と若くして亡くなった友人の言葉を思い出すことがある。
自分が32歳のとき、旭川市役所の同期入庁のうち15人ほどの仲の良いグループでバリ旅行に行った。彼は28歳、国内のみならず海外も色々なところを旅している人だった。
同期の連中と北海道内を旅行することが多かったが、海外に行ってみようという話になり、海外旅行に旅慣れた彼が世話役となり企画してくれた。
日本は治安も良く、世界一安全な場所だと言われている時代、そのような環境で育ってきた自分たちとっては、海外は油断できない怖いところだという意識が強かった。
同期の中で最年長だった自分も年下の人たちを安全にリードしなければならないという意識から、彼と協力しながらバリを観光して回った。
初めての海外旅行でもあり、楽しかったものの、半分は緊張していた。小銭以外は服の中に着けるベルトに、カメラはたすき掛けにと、用心して街を歩いた。
ホテルのスタッフや観光ガイドと会話することもあったが、現地の住民と話す機会は殆どなかった。
帰りの飛行機の中、大きなトラブルもなく楽しく過ごせたなと、彼と話をしていたところ、「今度は観光ではなく、海外を旅したらいいよ」と彼がポツリと言った。
その時は、何となく「観光と旅は違う」ということが分かったような気がしていたが、明確な違いは分からなかった。

念願だった宿を開業することを彼に報告しようとお墓を訪れたとき、改めてこの言葉を思い出し、その意味を考えた。
人それぞれ、旅行のスタイルは違うし、時と場合によっても違うだろう。また、観光と旅の明確な区切りなどない。
ただ、彼の言っていた旅とは、その土地に訪れ、その土地の人と面と向かって話、その土地の習慣や風土、現状を理解することだろうと思うのである。
旅はその土地を消耗させるのではなく、その土地を理解し、その土地の文化を地元の人々と一緒に守ろうとすることやその気持ちを持つことだと思う。
おそらく、彼の言っていた旅とは、そういうことだろうと理解している。
今日も自宅の窓から、夕陽に照らされた十勝岳連峰を眺めながら、そんなことを思い出した。