月別アーカイブ:9月 2024

一緒に見た一番星

先日、30歳代後半の女性が一人でお越しになられた。 女性一人客は、そう珍しくない。その多くが、美瑛の旅、シュカブラに泊まる理由は「自分へのご褒美」「人生の転換期(転職)」「仕事のストレスからの解放(リフレッシュ)」など、『ひと呼吸つきたい』ということのようだ。 都会から来られる女性一人旅の方は、運転できない割合が高く、そのため、僕の車で空港や駅への送迎するほか、丘のドライブや、買い物等に一緒に出かけることも多く、お話をする機会も多い。 そんな時、ほぼ毎回聞かれるのが、「なぜ、北海道に移住した」「なぜ、安定した公務員を辞めた」「今の仕事、北海道での生活は楽しいか」だ。 先日の女性も、仕事のストレスから解放され、「少し贅沢な旅を」と以前から気になっていたシュカブラを思い切って『予約』されたとのこと。 その方は、建築を学ぶため大学に進学したかが1年で辞め、その後、美容師、語学留学など、そして現在は監査法人の契約社員として働いているとこのと。40歳を前に、未だに一貫したやりたいことが見つからないと、少し悩み不安を感じられている様子だった。 しばしば、お客さんには「夢を叶えられて羨ましい理想の人生ですね」などと言われる。しかし、僕だって、何となく大学に行き、何となく公務員になり、27歳でやりたいこと(北海道で宿をやる)を見つけ30歳で北海道に移住したが、その気になれば2・3年で開業できそうなものを、だらだらと20年もの時間を過ごし、やっと50歳で開業したが、これから先、また別のことをやりたくなるかもしれない。 人は、食べて寝て子孫を残すという動物的本能だけを持っているのではなく、知能が高いため、楽しく生きたいという欲望が必ずある。それが、そのときの置かれた状況により日々変化していくのは、ごく自然のこと。 生まれてから死ぬまでに、やりたいことが一貫しているなんてことはありえない。若い頃は、普段の生活に疑問を感じ、次のステップに一歩踏み出す勇気を多くの人が持っているが、年齢を重ねると、その勇気を持てない人が多くなり、心では変化を求めるが、変化から目を背けようとする人が多くなるような気がする。 いくつになっても、たとえ一つひとつに一貫性が無くても、その時やりたいこと楽しく一生懸命やることが大切なのであり、その中から次へのステップの何かが見つかるのだと思う。 実際、何となくなった公務員から宿泊業という全く畑違いの仕事をしている自分も、公務員で経験した知識や感覚が、多岐にわたり役立っており、しばしば、それを実感できることに、何となくなった公務員でも今となっては良かったと思うのである。 ただし、それは何となくなった公務員でも、その職にある間は正面からその仕事に向き合い取り組んだことにより得られた結果であると思う。 様々な畑違いの職に就くことが他人からは一貫性が無いように見えるかもしれないが、大事なのは仕事の種類ではなく、人としての考え方の一貫性だと思う。 あくまでも仕事は、その人の生き方や考え方を表現する媒体でしかなく、人生そのものではない。頑張っても自分を表現しづらいと感じ、他にやってみたいことが見つかり、それへ挑戦することは素晴らしいことであると思う。 公務員を辞めるとき、挨拶周りで「櫻井さんが羨ましい」という何人かの同僚がいた。口にはしなかったが、心の中で『羨ましいと思うなら、あなたもやりたいことをやったらいい。だって、人生は1度きりしかないよ』と言った。 102歳になる祖母がスマホを指でスクロールしながら言っていた。 「人間、死ぬまで勉強の繰り返し、新たな発見を求め、新たな楽しみを探す。それが人であり、人として生きている証。誰にでも苦しいとき、辛いときは必ずある。それを深く感じられる人は、楽しいことも、なお深く大きく感じられる。自分が思うほど、人は自分のことなど気にしていない。人生は誰のためのものでもなく、自分のためのもの。他人に迷惑を掛けない程度に、自分勝手に好きなように生きたらいい。」と。 人は皆、シンガーソングライターのようなもの。その人の生き様は、共感してくれる人だけに響けばよく、それだけで十分に世の中のためになっていると思う。

2024-10-24T18:49:18+09:002024.09.30|

仕事を通して世の中に伝えたいこと

シュカブラにポルシェのオープンカーが現れた。 高級車に詳しくはないが、グレードが高そうである。 シュカブラに来られる多くの方がレンタカーだが、時々、フェリーで愛車と一緒に旅をされる方がいらっしゃる。 この方とは、予約時から美瑛情報の提供などをメールでやり取りしていたが、とても丁寧でありながら、気さくな感じだった。 自家用車でお越しになられ北海道内を広い範囲で旅行されるとお聞きしたので、大きめのRV車でお着きになるのだと、勝手に想像していた。 ご到着時刻に合わせシュカブラの敷地入口で待っていると、坂の上から大型バイクのようなエンジン音が聞こえたため『これは車じゃない』と思ったが、少しエンジン音がバイクと違うような気がした。次の瞬間、こちら側にウインカーを点けたポルシェを運転する私と同じくらいの年代の男性と女性が現れた。 駐車場に誘導し、車からにこやかに降りられてお二人。 ポルシェを目にしたときは、予想が外れたため少し緊張したが、お二人の気さくな感じにほっとした。 ご主人は車が好きで、高級車を買い替えては、その車と一緒に国内を旅することが好きだとこのと。 僕の出身地である三重県と近い県からお越しであり、高級車と気さくな雰囲気のギャップに興味がわき、職業をお尋ねすると、ラーメン店を経営されているとのこと。 これを聞いた時は、お金を溜めて脱サラして、好きなラーメン屋を始めたのかなと思ったが、なんと、学校を卒業してから、屋台のラーメン屋をはじめ、そこから幾度とない苦難を乗り越え、今に至ったとのこと。しかも、奥様は高校の同級生だとのことで、その苦難を支えて来られて奥様にも感服した。 帰省した時には、是非伺おうと、チェックアウト時にお店の名前を聞いておいた。 HPには、美味しそうなメニューやウリが書かれていたが、僕が一番の感銘を受けたのは、HPの中のあるページから伝わって来る世間への訴え掛けだ。 受け取り方によっては、『何を偉そうに』『殿様商売』と感じる人もいるかもしれないが、書かれた一文にはご店主の社会に対する思いが詰まっていると感じられ、ラーメン屋という職業を通し、良き日本を後世に繋いでいきたいという思いが伝わってきた。 もちろん、味には色んな好みがあるが、きっとラーメン1杯にもその思いが吹き込まれ、お店が醸し出す雰囲気に共感する人が多いため、繁盛店となっているのだと思った。 繁盛度合というものは、どれだけ人に喜びを与えられているかと同時に、どれだけ経営者の思いが伝えられているかのバロメーターであると思う。 僕もまだまだだな。 美瑛は、今日の午後から一気に気温が下がってくるようだ。大雪山や十勝岳の上の方では、紅葉も始まっている。これから大好きな季節が始まる。毎年のことだが、僕が決して飽きない美瑛の深い秋冬が始まる。

2024-10-24T18:50:04+09:002024.09.20|

ソバの刈り取り

午前9時、事務室で仕事をしていると『ゴーッ』という音がする。 『始まったな』 蕎麦の刈り取り作業である。 この時期、朝、快晴の日は放射冷却で10℃近くまで冷えることがあり、夜露がソバの実に付くため、ある程度太陽が昇り、気温が上がり乾燥してから刈り取り作業をするのだと思う。 大型コンバイン(超大型ではない)が3台、シュカブラの前の広大なソバ畑をバリカンで刈るように綺麗にソバを刈り取っていく。 刈り取った直後は、緑色の茎が表に現れコンバインのキャタピラの後が縞々になって畑に残っていく光景が何とも綺麗だ。この茎は、数日すると朱色に変わり、畑一面が秋色になる。 コンバインの運転手さんは、刈り残しが無いよう、また、無駄な時間をかけないよう、真剣な表情で作業を進めていく。 宿泊棟や管理棟の窓からは、目の前を横切る大きなコンバインが見え、圧倒されそうな感覚だ。 以前に比べ、美瑛はソバを栽培する農家さんが増え、それに伴いソバ畑も増えた。 その裏には、農業者の高齢化や人手不足という問題がある。 美瑛の有名なパッチワーク模様は、小麦・ジャガイモ・ビート・大豆の4種類を輪作(毎年作物を変えること)する昔からやっていた農業者の営みによって生み出された光景だ。なぜ、輪作するか。同じものを毎年作ると連作障害(病気など)が発生する可能性が高いため、違う作物を作るのであるが、蕎麦はその必要がない。また、ソバは防除(農薬散布)が殆ど必要ないと言われ、、シュカブラの前のソバ畑でも農薬を撒いているのを見たことがない。ソバは、ある程度の農薬散布が必要な小麦などに比べ手間がかからず、比較的痩せた土地でも育ちやすいのである。このため、人手不足に対応しやすい作物であるとのこと。 美瑛でも美味しい蕎麦が食べられるお店がある。もちろん、シュカブラの前の畑で育った蕎麦を食べられるお店もあり、このお店では、とても美味しい蕎麦が食べられるが、あまり知られていなく穴場だ。沢山の人に知られてしまい混雑することがないよう、シュカブラに泊まられた方に、こっそり教えることにしている。 そろそろ自分の頭の髪の毛も伸びてきた。今夜、超小型コンバインで刈ることにしよう。

2024-10-24T18:51:26+09:002024.09.04|
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