「美瑛に来て大自然を満喫したい」という方がよくいる。十勝岳や旭岳は確かに大自然が広がっているが、美瑛の丘は大自然ではないと思うのである。大自然というと人の手がほとんど入っていない所をいうのではないだろうか。北海道でいえば、例えば、知床や釧路湿原などで私も大好きだ。
でも、美瑛の丘は人の手が入っていない所ではなく、人が生きていくため、作物を育てている農地なのである。それが、大雪山や十勝岳連峰の山々をバックに調和している風景が都会の人には大自然として映るのだろう。
都会では、工業などの2次産業やサービス・小売業などの3次産業が盛んだが、ここ美瑛は、農業という1次産業を軸として成り立っている人が住む町である。だから、決して手つかずの大自然ではない。
コロナ騒ぎが落ち着く方向に向かい、これから観光客が増えてくるなか、農地への無断立入も増えてくると考えられる。農地への立ち入りは病害虫の発生などで、農家さんにとって甚大な被害を及ぼす場合がある。そもそも私有地であり、無断立入は不法侵入という犯罪行為である。
立ち入ってしまう人には、二通りある。ダメだと分かっていて故意に入る人、ただの草原だと思い私有地だと知らずに入ってしまう人。前者は言語道断、後者には説明で足りるだろう。後者の中には、美瑛の風景を大自然だと感じている人が多い。そうではなく、100年以上も昔、様々な事情で内地から渡ってきた人が、生きていくために苦労をして切り開いた土地であるということを伝えたい。
写真家・故前田真三氏の言葉がある。初めて美瑛を訪れた故人は「今の日本にこの丘ほどの風景が存在するであろうか。人それぞれの心にそれぞれの旅があるように、この丘はいつまでも私の心の一頁として残しておきたいと考えている。」と書いている。
農家は見せるために観光のためにこの景色を作っているのではない。自分たちが生活を営むため、美味しい作物をみんなに提供するために畑を起こすのである。その風景が、たまたま見る人にとって美しく感じられるもの。このことを理解し、感謝の気持ちをもって美瑛を旅してほしい。そして、ここにしかないこの特別な丘を見守ってほしい。