全国各地で「オーバーツーリズム」が問題になっている。京都をはじめ広島の宮島や岐阜の白川郷、鎌倉などが有名であるが、美瑛も同様である。
京都では観光客が増えすぎて、路線バスに地元の人が乗車できないことや、鎌倉では江ノ電の線路に進入する者があり運行に支障をきたすなど、また、各地で民家への無断立入があるようである。
美瑛も同様に色々な弊害があり、コロナ明け以降、それがさらに激しくなってきている。
美瑛の特徴としては、一番に農地への立ち入りがある。10年前には「立入禁止」の看板はあまり見かけなかったが、最近はいたる所にこれが立っているのである。
この時期、農地である丘は積雪で真っ白だ。確かに看板がないところは、空き地だと思って進入してしまうこともあるかもしれない。ただ、看板がいくつもあるにもかかわらず、また、ロープが張ってあるにもかかわらず、立ち入る観光客が後を絶たない。
町役場や観光協会、また、土地の所有者等も様々な対策を講じているものの、いたちごっこになっている。対策を講じるにも多大な経費が必要になり、財源確保もままならないところである。
東京などでは数年前から宿泊税が導入され、観光関連事業に充てられているが、北海道でも宿泊税の導入が検討されている。
観光する側にも、地域を守るためにある程度の負担をお願いすることは、やむを得ないことだと思うし、自分が宿泊税のかかる地域を旅行した時は、その土地・風土の保全のために活用しほしいと納得して支払う。
ただ、美瑛の実情としては、この土地を訪れる観光客の9割が日帰り客である。農地や民家の庭に立ち入り、街にゴミや吸い殻をポイ捨てし、大きな声で騒ぎ、車が来ているにもかかわらず車道の真ん中で三脚を立て写真を撮っている、その多くが札幌や旭川等に宿泊している日帰り客のようだ。北海道の宿泊税が導入されても美瑛に宿泊していないのだから税がかからないのである。
美瑛は広く面積は東京23区と同じだけある。町内への道路も沢山ある。このため、日帰り客から美瑛に入る際に「入域税」を徴収することは困難であるが、何らかの方法で日帰り客にも一定程度の負担を求めるべきであると思う。
この夏は、これまで以上に美瑛への観光客が増えると予想される。一部の心無い観光客のせいで、地元住民の生活や、善良な観光客の楽しみを壊されるのは許しがたいことである。このままでは、近い将来この美しい美瑛の風景や風土は失われるだろう。
観光業に携わる者の責務として、この問題は放ってはおけないし、そのような悪質な行為を見て見ぬふりは出来ない。
「見たい」「知りたい」「移動したい」という衝動は、人間の持つ本能らしい。人類の祖先がアフリカで誕生し、世界中に広まったのが何よりの証拠だ。人が旅をするのは、それは植え付けられている遺伝子だ。
多くの人が見たことのないような風景を求めて美瑛にやって来る。
訪れる人には美瑛を見て美しいと感じると同時に、これを作り出しているのは自然と調和しこの地で生きてきた人々の営みがあるからであることを理解し、一緒にこの風土を守りたいと感じてほしい。それが、旅をする人にとって大切なことだと思うし、自分もそれを深く感じながら旅をしたい。